東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)121号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本願発明をもつて引用例記載のものから容易にできる程度のものであるとした点に判断を誤つた旨主張するが、この主張は、理由がないものといわざるをえない。すなわち、
前示本願発明の要旨に、成立に争いのない甲第二号証(本願訂正明細書)、同第三号証(本願訂正書)及び同第五号証の一から三(本願当初明細書添付の図面)を総合すると、本願発明は、化学繊維のトウをカツトして撚糸を作る方法について、糸むらの少ない、強力が大で、しかもその変動も少ない糸を得ることを目的とし、特許請求の範囲(本願発明の要旨と同じ。)記載の構成、すなわち、化学繊維のトウをスフ綿あるいはスライバーにカツトするに際し、そのステープルダイヤグラムが短繊維のないほぼ梯形となるように繊維長を相違させてカツトし、これを紡糸するものであることを認めることができるところ、成立に争いのない甲第四号証の二(引用例)によれば、引用例には、天然繊維において(引用例が天然繊維に関するものであることは、当事者間に争いがない。)、均斉優良な綿糸を紡績するためには、引用例第四百五十九図Cのようなほぼ梯形のステープルダイヤグラムのものが望まれ、ステープルダイヤグラムが三角形を呈するような繊維長の長短の差が甚だしいもの又は短繊維が多量に含まれているものは、同図B又は同図Dのような曲線を生じ、劣等綿とされ、好ましくないものであるという知見が示されていることを認めうべく、これを左右するに足る証拠はない。したがつて、引用例には、ステープルダイヤグラムを梯形にすることの知見は示されていない旨の原告の主張は、採用することができない。
なお、原告は、引用例に示されたものは、天然繊維に関する技術であり、したがつて、化学繊維に関する本願発明の先行技術とはなりえないものであるから、本願発明は、当業者の容易に考えられるところではない旨主張するが、天然繊維についての紡績技術を、可能な限り化学繊維の紡績技術として使用することは、この分野において普通に行われるところであることは顕著な事実であるから、天然繊維の紡績について前認定のような知見が開示されている場合、均一の長さにも不均一の長さにも容易に切断できる化学繊維の紡績において、本願発明のように、ステープルダイヤグラムが短繊維のない、ほぼ梯形となるよう繊維長を相違させてトウをカツトし紡糸するようなことは、当業者の容易に想到しうるところであり、そこに特許に値するような新規な技術的思想があるということはできないことは、いうまでもない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
化学繊維のトウをスフ綿あるいはスライバーにカツトする際に、そのステープルダイヤグラムが短繊維のないほぼ梯形となるように繊維長を相違させてカツトし、これを紡糸することを特徴とする化学繊維のトウをカツトして撚糸を作る方法。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
<省略>